働く馬のいる風景を取り戻して地域を活性化するプロジェクトの支援
現代の農山村が抱える課題は、過度の効率化によって、地域の自然や文化に根差した特色ある生業や産業が失われたことによるところが少なくありません。機械化や大規模集約化を進めることで産業としての生産性・効率性は高まりましたが、自然を活かす技能を有していた人々の働く場が失われ、また、農林産品が工業製品化し、海外製品との価格競争に陥り地域の所得向上に結びついていないことにより、地域における雇用は減り続け、地域経済の衰退に繋がっています。また、かつては里山資源を活用するために独自発達してきた生活文化・祭事等が衰退・形骸化したことや、かつての多様かつ美しい風景が画一的かつ無機質な風景に取って代わられたことが、若者の地域への誇りや愛着が醸成されず都市部への流出の契機になり、観光・交流の資源として地域外の観光客の誘引に繋がらない要因になっています。さらには、針葉樹の一斉造林、林道整備・機械による林地の踏み固めにより、豊かであった自然生態系も大きく損失を受け、持続可能な暮らしや観光の基盤が揺らいでいます。
我が国では、高度経済成長以降、農山村においても化石燃料が使われるようになると、かつてのエネルギー源であった薪や炭等の里山資源は使われなくなり、同時に馬や牛などの活用も日本の里地里山の風景から姿を消しました。一方、英国では、馬で木材を搬出するホースロギング(馬搬)が見直され、環境配慮型の小規模林業やエコツーリズムの手法として活躍の場を広げています。英国においても重機による森林整備の自然生態系に対する負荷が顕著に現れはじめたこと、馬搬施業には自然生態系の保護、健全な育成促進のための繊細なエコシステムが備わっていることが再認識されて、チャールズ皇太子の後援も得て、現在においては15名の専業馬搬事業者と1000名以上の兼業馬搬事業者がおりビジネスとしても成長している産業分野となっています(The Gardian 2009年4月22日の記事より)。この影響は日本にも波及しており、2013年には第一回日英馬搬シンポジウムが開催されている他、山梨県都留市(NPO法人 都留環境フォーラム)や岩手県遠野市(遠野馬搬振興会)で馬搬に取組む団体も現れています。
「信州しなの町 Horse & Human Project」は、こうした現代の農山村・農林業が抱える様々な問題を、かつて農山村が多くの人口を支えていた頃の人間の最も重要なパートナーであった「馬」をもう一度現代社会に合ったかたちで活用することで解決し、人と自然が共生する社会を取り戻し、ひいては魅力ある産業の創出と、その担い手としての都市住民の移住・定着を実現することを目指すものです。
事業は、5つの柱から構成され、以下がその概要になります。
①人材育成事業 ~Working Horse Academy Kurohimeの創設~
馬搬だけ、馬耕だけでも馬をコントロールするのは経験を要するので、馬の多様な活用に長けた人材を育成する。
②拠点整備・運営事業 ~Kurohime Horse Ranchの整備・運営~
信濃町における本事業の拠点として、「Kurohime Horse Ranch」を新たに整備する。
③農林業事業 ~Horse Farming(馬耕)、Horse Logging(馬搬)~
Horse Farming(馬耕)とHorse Logging(馬搬)を行い、生産された農林産品を商品化し、飲食店・物販施設等での販売を行う。
④観光・教育事業 ~Horse Tourism(ホースツーリズム)~
馬耕・馬搬など、働いている馬がいる美しい農村風景を観光資源として発信し、誘客につなげる。また、農林業に馬を活用しない季節や週末・連休等は、町内ののどかな川土手や畦道を、馬を引いて散歩するホーストレッキングや、キャンプ道具を馬に背負わせて山や高原でキャンプするホースサファリ等の観光プログラムを開発する等、観光にも積極的に活用す。
⑤医療・保養事業 ~Horse Therapy(ホースセラピー)~
森林セラピーとホースセラピーのプログラムを一体的に提供することで、協定企業へ新しい価値を提供し、都市部企業のメンタルヘルスの課題解決により大きく寄与することが期待される。また、児童養護施設向けプログラムの開発・提供も進める。
信濃町では、このプロジェクトを推進するにあたり、一般財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団を中心に町内の関係団体を構成員とした「信濃町ホースプロジェクト推進協議会」を設置しています。さとゆめも協議会の幹事団体として参画し、中心メンバーとして事業を推進しています。